フラッシュバックとは
フラッシュバックとは、 「過去の体験を連想させる」ような、 「過去の体験を感覚させる」ような、何かのきっかけに接した時、
あるいは、何かそうした刺戟を受けた時に、 (これをトリガー「引きがね」と呼びます)
「 あのとき 」と同じ感情や感覚が、不意に甦ってきて、 それによって、 さまざまな反応を引き起す状態を云います。
あるときテレビで、住宅街で爆発火災があったニュースが流れ、 現場の近所に住む老人が、「 爆発音を聞いて、太平洋戦争のと きの東京大空襲の情景を思い出して、とってもこわかった 」と、 震えながらカメラの前で語っていらしたのを、 見たことがあります。
フラッシュバックでは、このように、 「あのとき」の情景や記憶も、共に甦ってくるケースもあります。
一方で、 ただ感情や情動(あるいは気分の様なもの)だけが、 生じるようなケースも多く、 そうしたケースでは、 ご本人自身も、フラッシュバックが起きている(いた)とは、 気づくことが難しくなります。
そのため、 実はそれはフラッシュバックの反応によるものなのに、 「自分の性格のせい」とか「自分がダメだから」と、 悩んだり苦しんでいる方たちも、 多くいらっしゃいます。
更に、カウンセリングやクリニックを受診しても、 フラッシュバックであることを見落とされ、 「それはあなたの心のクセ」だとか 「あなたの性格の問題」とされて、 治療やカウンセリングがいっこうに良い方向へ進まない、 というケースがあります。
【 フラッシュバックと感情(情動)】
感情とは、ご存じのように、怒り、恐怖やこわさ、くやしさ、 恥ずかしさ、悲しさ、不安、などのことです。 (もちろん、よろこびとか幸福感も、感情に入ります)
そして、感情のエネルギーのより強いものを 「情動(じょうどう) 」と呼んでいます。
強い感情や情動は、自律神経系などを通して、 心身の反応を瞬時に引き起すことになります。
それはフラッシュバックに限らず、 発生する感情や情動が強いほど、たとえば、
動悸が激しくなったり、手足が震えてきたり、 手のひらに汗をかいたり、息が詰まりそうになったり、 頭が真っ白になったり、ワッと叫びそうになったり ・ ・ ・ などの心身の反応を、様々に引き起すことになります。
つまり、フラッシュバックとは、 過去の出来事や体験による感情や情動が突然甦ることで、 なんらかの心身反応が引き起される「 情動反応 」のことです。
情動反応ですので、単なる考え方や理屈、気の持ちようなどで、 解決や克服できるものではありません。
たとえば、 パニック症状・パニック発作の中には、 フラッシュバックによる反応が、 かなりの割合で含まれていると、考えられます。
【 アクティング・アウト 】
トラウマ(心傷体験)のフラッシュバックの場合には、 アクティングアウトと云って、それが 突発的・衝動的な行動をもたらすことがあります。
パニックや衝動行為がみられたときには、一応フラッシュバック ではないかと考えてみてください。フラッシュバックという言葉 が映画に由来するので、視覚イメージだとみんな思っているで しょ。そうじゃないんですよ。 ( 神田橋條治 精神科医・精神療法 )
中井久夫先生がどこかに書いていらっしゃったけれども、統合失 調症の患者さんに抗精神病薬を与えて、ある程度うまく治まった けれども、ある特定の幻聴や妄想がどうしても消えないときに、 それがフラッシュバックである可能性がある。僕もそれは何例か 経験していますが、抗精神薬が効かない。 ( 神田橋條治 )
フラッシュバックは、 薬で消えたり、なくなったりする性質のものではない、 という特徴があります。
たとえば、発達障害を持っている人たちなどは、 過去に受けた叱責や罵倒、心ない言葉等々を、 繰り返し繰り返し甦らせてしまうことがあります。
そのため、フラッシュバックにもかかわらず、 安易に統合失調症などと誤診されて、延々と誤った薬物投与をさ れているケースなどもあります。
【 トリガー(引きがね)は些細なもの 】
上にも記しているように、 「あのとき」の情景や記憶を伴わない、 感情や情動(あるいは気分のようなもの)だけのケースでは、 本人自身もそれがフラッシュバックによるものだとは、 なかなか気づきません。
多くの患者さんたちで、フラッシュバックのトリガー (引きがね)になったものは、余りに小さいために、なかなか気 づいていないことがあります。 ( 神田橋條治 )
そうしたケースでは、 それがフラッシュバックであるということを、 ご一緒に理解し・共有してゆくことが、 まずはとても大切になります。
たとえば、 「 些細なことを批判されると、 全人格を否定されているように感じて (怒りがとても湧いてくる・死にたくなってしまう・ ひどく落ち込んで何もやる気が起きなくなる)」 というお話・陳述の背後にも、 トラウマのフラッシュバックが起きているのではないか、 と考えて、面談で詳しく話しを聞いてゆく必要のあることを、 神田橋氏が指摘しています。
どんな話でも、突然とか発作的にとか、断裂があるような訴えが あった場合、ボクは全部フラッシュバックではないかと考えて、 こまかく話を聞くようにしています。 ( 神田橋條治 )
【 普段の生活の中でにあるフラッシュバック 】
多くの人たちは、フラッシュバックと聞くと、 事故や災害に巻き込まれた方たちが、 事故や災害の記憶から抜け出せずに、パニックになったり、 なにかの精神症状を現したり、 ということを想像されるかもしれません。
しかし、カウンセリングで出会うフラッシュバックの多くは、 むしろ、普段の生活・普段の人間関係の中で 生まれているものです。
ですので、フラッシュバックとは、 なにも特異な心の現象などではなく、 わたしたちの身近にあるものなのです。
例えばですが、 頭ごなしの言動や態度に対して、 ひどく過敏・過剰に反応する人がいらしたりします。
もちろん、そうした言動や態度に対して、 不愉快に感じない人はいないはずです。
しかし中には、そうした言動や態度を見せる人に対して、 非常なる嫌悪感や拒否感、あるいは、ひどく怒りや反発心を 示す人がいます。
しかも、実際に頭ごなしの言動を行なう人に対してだけでなく、 なんとなくそんな印象を受けるだけの人に対してさえ、一方的 に嫌悪感や反発心を抑えられません。
もしかすると、 過去に誰かから、そうした扱いを受けて、 ひどく傷ついたり恨んだり、不安や脅えの体験の記憶が、 底の奥に隠れているのかもしれません。
それが、いま目の前にいる人に、 オーバーラップされてしまう ・ ・ ・。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
たとえば、どんなに辛い過去の出来事や体験だとしても、 ただそれを思い出したり、回想するだけでは フラッシュバックとは云いません。
自分の意識や思いとは無関係に、 そのときの感情や情動までもが甦ってくる情動反応が、 フラッシュバックの本体です。
【 フラッシュバックからの回復とは 】
ひとことで「フラッシュバック」と云っても、 お一人おひとりに、様々な背景があり、 心の物語りがあることに気づかされます。
フラッシュバックからの回復とは、 「 思い出さなくなること 」ではありません。
「 他の記憶や思い出 」の中に混じり合ってゆくことです。
思い出や記憶には、楽しい思い出、うれしい思い出もあれば、 つらかった記憶、悲しかった思い出もあります。
それらのひとつ、になってゆくことです。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
落ち着いた安心できる場で、少しずつ少しずつ、一歩ずつ、 共に整理してゆくことで、やがて 別の形に消化(昇華)してゆくことが、きっとできる。
細かなことは色々ありますが、 そうした思いを大切にしながら、 カウンセリングではご一緒にお話しをしています。
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