内因性うつ病について

メランコリーとうつ病

うつ病とは、本来はむかしから、
「内因性うつ病」と呼ばれてきたものを指します。

内因性うつ病は、ひとむかし前までは
メランコリー( melamcholia )とも呼ばれていました。

メランコリーは、デプレッションが広く使われるようになる前の
(内因性)うつ病の旧名である。

( 濱田秀伯 精神科医・精神病理学 )

しかし一般には「メランコリー」はうつ病の別名としよりも、
「 憂うつ 」という意味で広く使われています。
梓みちよのヒット曲に、
「メランコリー」(昭和51年)という歌謡曲があります。


中枢神経系の疲弊と自律神経の不調和

うつ病は、抑うつ症状・抑うつ状態というだけでなく、
中枢神経系
(脳と脳から直接つながった神経系)の疲弊と、
活動性の低下を示すもの、と臨床的には見られています。

そして、中枢神経系の疲弊は、
かならず自律神経系のさまざまな抑制・抑止(つまり働きの低下
や不調和)をともなうことになります。


うつ病というのは自律神経系の不調和が、ほとんど必発であらわ
れるんだ。だから、たとえば腹直筋の緊張とか手の汗ね。
手に汗かく患者さんがいたら、「これ足の裏まで汗かくと重症な
んだけど、あなたの足の裏はどうですか 」って聞くんです。そ
れで「 靴下が濡れます」とか云ったら、「そうか、だいぶ進ん
でいるよ」というふうにして、ひとつずつやっていくと共有でき
るんです。
その時点では、うつ病と診断できない「疑い」の段階だけど、
症状については共有していけるんです。

( 神田橋條治 精神科医・精神療法家 )


抑制は自律神経や身体にも及び、つばも涙も出なくなり、口がか
わく、便秘となり、食欲もなくなる。食べていても味がわからな
くなり、ただ口に入れています、という。表情の動きも抑制され
る。うつ病は身体と心とにわたる病気である。

うつ病のうつ状態とは、まず「抑制」が特徴である。
行動はのろくなり、口数も少なくなる。「口が重い」「重苦しい
動き」という印象である。
ひどいときは、這っている虫を見ても「いっしょうけんめい働い
ている、オレよりエライ」と感心する。
とくに決断がつかなくなる。重症のときには階段の途中で、上に
行ったものか降りるべきかで決められなくて、階段の途中で立ち
往生したり、牛乳ビンを前に「飲もうかやめておこうか」と半日
考え込んだりする。
( 中井久夫 精神科医 )


希死念慮

そして、うつ病では、たとえ軽度に見えても、
かならず自殺念慮を抱えていると考え、治療・対応していかなく
てはならない、とされています。

中安信夫氏はこう語っています。
( 内因性うつ病の診断を間違えてはならないのは )内因性うつ
病は、抑うつ神経症や抑うつ反応と違って、どんなに軽症であっ
ても、また初期であっても、希死念慮が必発であり、稀ならず自
殺企図が生じるからである。

感情喪失感

(内因性)うつ病は、抑うつというだけでなく、
中枢神経系の疲弊があるために、
涙も出てこない、そもそも喜怒哀楽の感情が湧いてこない、
という苦しさ感が持続します。

そのため、涙が出るようであれば、
「それはうつ病ではないか、もしくはうつ病だとしたら病像が軽
快してきたかのどちらかである」とも云われます。

三十歳の主婦であった。産後うつ病と診断され治療を受けていた
が、二年間改善せずに自殺を図ったため、近親者が当院に連れて
きた。
問診で意外に思ったことは、まず涙もろいことであった。さらに
私は、二十分ほどの面接の間に彼女の気分をほぐして、笑わせる
ところまできた。こういうことはうつ病ではまずない。

うつ病状態の特徴のひとつは、たんに「 落ち込んでいる 」ので
はない、「悲しい」のでもなく、「悲しむことすらできない」
「喜怒哀楽がわからない」、「 泣けたらどんなにいいだろう 」
ということである。涙がこぼれてきたり、悲しみがこちらに伝わ
ってきたら、それはうつ病ではないか、ずいぶん治ったかだ。

しかし、深刻さがこちらに伝わってこず、聞く方は、重大な内容
を聞いているのに、なんとなくうんざりしていたりする。これは
聞く方の心がけが悪いからではなく、「共鳴喪失性」というひと
つの症状である。
表情も動かず、涙もでないことが手伝って、感情がこちらに伝わ
ってこないのであろう。
( 中井久夫 )

スマイリング・デプレッション

注意すべきは、「顔を作れる」能力が身に付いている場合だ。
そういう人ほど、深い抑うつを抱きつつ、うつのさなかでも「顔
をつくる」ことができて、笑顔をたやさないことが多い。スマイ
リング・デプレッション である。
だから、昨日楽しそうに談笑していた人が、今日どうして飛び降
り自殺をしたのかと、まわりがいぶかることになる。
( 中井久夫 )


厭世観と自責観念

内因性うつ病とは、たとえて云えば、
その人にとっての生きてゆく内的な「支え・よりどころ」として
きた「何か」が、失われていくような状況・心境の中で、徐々に
抑うつと厭世観に沈んでいくと共に、中枢神経系が疲弊し、心身
が抑制されていった状態だと云えます。

うつ病の深いとき(病相期)には、
ネガティブな感情に彩られた過去の記憶や出来事を、繰り返し繰
り返し思い起こして、さらに深い厭世観に沈んでゆきます。

そして自分を責め、自分の不甲斐なさを責め、
「とり返しのつかなさ感」に苛まれてゆきます。


薬は休息を促すためのもの

こうした状態像の故に、うつ病では初期治療として、
本来であれば「休息すること」が不可欠ですし、
「本人が余計につらくなるから、頑張れと励ましてはいけない」
とされるわけです。

うつ病の場合には、薬は、休息をサポートするために、
必要とされるものです。
ただ休みを貰って家にいたり、寝ているだけでは、
(中枢神経系)は、本当には休むことが出来ていないからです。


( 内因性うつ病の治療は )
薬物治療と休息療法という両輪から
なる。精神療法
( カウンセリングや心理療法 )も、この両輪を
支えるものとして重要であるが、深い侵入的な精神療法はふつう
この病態には不要である。
わたしの経験では、休息を抜きにした薬物治療の効果には疑問が
ある。

( 笠原 嘉 )

治療とは、治すことです。治すとは、医者に来なくてもいいよう
な状態へ導くことです。それを目指した物語でなきゃだめ、そう
でしょう?
抗うつ剤を出したら、これこれの症状が薄れた。しかし、その時
もその後も薬は飲んでいるまんま。そんなのは治すとは云いませ
ん。「抗うつ薬は松葉杖ですから、それで改善しても偽りの回復
ですよ」と僕は患者さんに伝えています。
薬での回復は、仕事へ戻るためではなく、うつから回復してゆく
ための生活の工夫や、ひいては再発の予防の工夫、すなわち生活
や生き方の変更をしやすくするためのもの、であることを強調し
ます。

( 神田橋條治 )

(回復への心理的なサポートなしに)抗うつ薬だけを投与するの
は、徹夜マージャンに励んでいる人を支えるために、覚せい剤を
打ってあげるのに似ている。

( 神田橋條治「うつ病の回復過程の指標」 )

こんなブラックユーモアがあるの。腕の痛みをとる一番確かな方
法は、腕を切り落とすことだ、ってね。精神科のお薬の作用はち
ょっとそれに近い。脳の働きを抑えて悩みを忘れさせるんだから。
( 神田橋條治 )


現在では、薬を長期服用しながら、
仕事に通い続けている人たちは、とても大勢いらっしゃいます。
しかし、上にも記しているように、
お薬は「 脳の働きを抑える 」ためのものですので、
「 六分頭 」になってしまって、
その人本来の能力を発揮することは、望めなくなります。
 

うつ病は増えているのか

「 うつ病が増えている 」
「 新型うつ病があらわれている 」というキャンペーンが、
マスコミを舞台におこなわれています。

なにか「 裏 」を感じながら、
こうした一連のキャンペーンを見ている人たちもいます。

このところ、うつ病が増えてきているという話を、あちこちでお
聞きになると思います。しかし、私なんかの専門の立場から見ま
すと、本当の意味のうつ病というのは増えていない。むしろ、ど
ちらかというと減っているんじゃないかという気がします。
どういうことかと言いますと、「うつ病」と呼ばれて増えている
といわれるのは、実は本当のうつ病ではなくて、抑うつの状態を
主な症状とする、別の病像ではないか、ということなのです。

( 木村 敏 精神科医・精神病理学 )

私がこの三十年間、臨床場面で見てきた限りにおいて言うのです
が、本物のうつ病、正しくは内因性うつ病は増えているとは思い
ません。
「 うつ病は増えている 」という言説はまやかしであり、ずさん
な診断基準
(マニュアル診断)によって成立したものです。時に
私は、そこに誰かの作為すら感じてしまいます。

( 中安信夫 精神科医 )

マニュアル診断の弊害

中安信夫氏は、昨今の(DSM等)マニュアル化してしまった診断
治療の中で、なんでもかんでも「うつ病」と診断して、画一的な
投薬を行なう状況を批判して、こう書いています。

( 内因性うつ病と神経症性うつの違いは )顔見りゃ分かるじゃ
ないか! というものであり、この点は一緒に聞いていた同僚もま
ったく同じで、期せずして、二人の口から同じ言葉が出たもので
あった。
たとえば、全般的に緩慢な動作や挙動。うつむきがちで萎縮した
姿態や雰囲気。苦渋を呑み込んだような、同時に生気を失った表
情。質問に対する理解に欠け、応答までに間があき、途切れがち
な応答ぶり。ゆっくりした抑揚に乏しい小声など。
これらの表出(外観上の特徴)は、内因性うつ病の診断には必須
のものであって、こうした表出の観察なくしては「うつ」の鑑別
診断はできない。

「 内因性うつ病について想い起こすこと 」2009年

抑うつ気分、自己評価の低下(自信喪失感)、趣味などに対する
興味や関心の低下、などを入れていないのは、それらは「 抑う
つ反応 」や身体疾患による抑うつ状態の時にもよく見られるも
のであって、「(内因性)うつ病」の特徴とはならないからで
ある。
( 中安信夫 )


加藤忠史氏は、このように書いています。
うつ病とはどういうものか、という認識が、治療者の中ですら共
有できなくなっている現状がある。
たとえば、休暇は楽しめるが職場には行けないと訴え、周囲の無
理解を非難する神経症傾向の強い患者と会っているメンタルクリ
ニックの医師と、自殺未遂を起こす妄想観念の強い重症のうつ病
患者を担当している精神科医とでは、「うつ 病」のイメージは
まったく異ってしまう。


関連ページ 抑うつ神経症と神経症性うつ


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