親子の伝達 〜伝わってゆくもの〜


         

| はじめに |

赤ちゃんや幼い子どもは
親御さんが抱える感情を共有し
受け継いでゆくことがあります。

顔や形が似るだけでなく
母親あるいは父親が抱える感情や情動も
受け継いでゆくことがあるのです。

情動とは、感情のより強いもので、自律神経を通して心身の反応を瞬時に引き起こします。

アンナの日記から

たとえば
アンナ・フロイトという女性の日記に
次のような観察が書かれているのを
読んだことがあります。


アンナは、ロンドンで孤児院をつくり
親のいない子どもたちを育てていました。

第二次大戦、ドイツのミサイルが
ロンドンの市街地を襲っていた頃です。

警報が響き渡る中
地下壕に逃げ込んでくる人々の中には
お母さんに抱かれた赤ちゃん
そして、幼い子どもたちもいます。

お母さんの中には
不安そうにひどく怯え、恐怖で混乱し
取り乱している人もいます。

そうした母親と一緒の子ども・赤ちゃんは
皆とてもおびえた表情で、不安げで
泣いたり震えたりしています。

その一方で、中には
普段とあまり変わらない様子の
お母さんもいます。

そうしたお母さんと一緒の子どもたちが
どのような様子かというと

地下壕の中でも
おびえた表情もみせずに
遊んだりしている、と云うのです。

こうしたことに気づいたアンナは
子どもたちを避難させる時に

自分やスタッフが
子どもたちを怯えさせたりしないよう
気を配っていることが
日記に書いてありました。

情動共有と連鎖

アンナの観察はひとつの例ですが

つまり、赤ちゃんや子どもにとっては
空襲や避難という状況そのもの
というよりも

その場の親から表出される
不安や恐怖などの情動に
一体になって強く反応している

・・・と想像できそうです。

子ども(赤ちゃん)とお母さんのとの間では
強い心の引力が働いているのです。

| スズメの赤ちゃん |

たとえば、
雀の赤ちゃんは、最初から
人間に怯えているわけではありません。

観察すればすぐに分かります。

親雀が警戒して逃げるので、
それを真似ていくなかで、人間に怯える習性を身に付けていくわけです。

人間の親子は雀よりも
もっと複雑な内的交流を行なっています。

わたしたちは、大人になっても
親から受け継いだ情動を内心に抱えて
生きていることがあります。

わたしたちは、
〝親と子〟という関係の
とても長い流れの中で

いま生きているし
これからも生きていく。

ですから、そう云う意味では

もしも、ホントウの「自分探し」
というものがあるとしたら

自分の親のことを知ることから
始まるのかもしれません。

余談になりますが、
この「自分探し」と云う言葉は
川島雄三監督の1950年代の映画の中で
ヒロインが既に使っています。

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