躁状態とは 〜 躁うつ / 双極性障害 〜


「 躁(そう)状態 」とは、
家族や周囲の人たちが、ひどく振り回され悩まされたり、
仕事や人間関係・社会生活が壊れてしまうような、
激しい状態をいいます。
( 躁状態とは、いわゆる病としての躁になります。)

一方、周囲の人も本人もそれとは気づかないような、
気分の高揚をともなった状態もあります。
それを「 軽躁状態 」といいます。

カウンセリングをしていて改めて感じるのは、
「 躁 」というものが、気づかないだけで、
意外に身近に存在する、ということです。


(木村 敏 精神科医 )
われわれはふつう、患者がすでに日常生活に重大な支障をきたして
いる場合にのみ、躁うつ病という臨床診断をおこなう。
しかし、詳しくたずねてみると、常日頃から、ちょっとしたきっか
けからスランプに陥ったり、不思議に調子が出たりする、といった
気分の波を持ち合わせているのがふつうである。
こうした不調は、ほんの数時間のこともあるし、数日つづくことも
ある。場合によっては、そこからいろいろな身体症状、身体の不調
が出てくることもある。

陽気な躁状態と憂うつなうつ状態とは、一見お互いに反対方向への
偏りであるように思われるけれども、実際には躁状態も心的機能の
低下とむすびついているので、真の機能亢進の表現ではない。
 

躁うつ病(双極性スペクトラム)の治療の現状

神田橋條治 双極性障害の診断と治療  
講演は、あまり得意じゃないんですが、あえてお引き受けしました
のは、双極性障害の治療の現状がまことに悲惨な状態にあって、
いたたまれない思いをしているからでございます。
現在、情けなく思いますのは、DSM
(アメリカ製のマニュアル診断
基準)
からは正しくきちんと診断され、治療されて、その結果、
もうほとんどメチャクチャな状況になってる患者さんが多いこと
です。診断が治療を壊しています。

かしまえりこ スクールカウンセリング モデル100
筆者は神田橋(神田橋條治)の陪席を長く続けてきて、他の疾患
と誤診されてきた双極性障害の人々が、正しい治療を受けて、す
みやかに回復してゆくありさまを数多く、目の当たりにしてきた。
本来なら子ども好きの優秀な教師であったろうと思われる人々が、
うつ病、統合失調症、人格障害などと誤診されて、適切な治療を受
けられずに、長年苦しんだり、はなはだしい場合には、退職に追い
込まれたりしたケースを数多くみてきた。

双極性障害と正しく診断されていても、処方された薬剤が不適切で
あるために、治療が進んでいないケースも少なくない。
また「 不安 」を主な症状として訴えることが多いために、抗不安
薬が処方され、常用した結果、不安に耐える力をますます失ってし
まっている人々にも、数多く出会った。


いわゆる行動化
(リストカットや薬の大量服用など)が頻発すると、
当然パーソナリティ障害ということも、念頭に浮かんできますよね。
しかし、そういった見立てが治療的ではなく、感情障害としてしっ
かり治療すれば、人格障害的な病状がなくなる、ということを私も
経験しています。「行動化があったら人格障害」というのは非常に
短絡的な考えだと思っています。

( 杉山 通 精神科医 )


( 中井久夫 看護のための精神医学 )

DSM(アメリカ製の診断マニュアル)では「 気分障害 」と呼ばれ
ているが、ここでは従来の呼称「 躁うつ病 」を用いる。
 

躁の時期は「 抑制解除 」が特徴である。
おしゃべりとなり、よく動く。対人関係のルールを気安く乗りこえ
てしまい、たとえばエライ人のところへなれなれしく話しにいった
り、他人どうしが話し込んでいるところに割り込んだりするが、
「にくめない人」という印象を与えるので、苦笑されて「まあまあ」
となだめられるくらいですむ。
躁病の躁状態の活動は、ただ言動が高まって「いそがしい」だけで
はない。「 転導性 」が増大している。いまこれをしているかと思
うと、あれをしている。
ある人に話しかけているかと思うと、別の人に移る。「くるくると
目まぐるしい」のである。

ふしぎなことに躁病の躁状態は、過活動を何日つづけても、疲れて
倒れこまない。しかし多くの人は、その後、うつ状態で支払ってい
るのである。
では一人にしておくとどうなるか。やはり対人関係活動に熱中して
いる。たとえば手紙をやたらに書いていて、宛先はふだんやりとり
のない人だとか、会ったこともないエライ人である。最近は電話を
かけまくる人も多い。

躁状態の人は上機嫌のこともあるが、こころの底から愉快なのでは
ない。何かに突き動かされている感じなので、底の底には不快感が
ある。これが表に出てきて、不機嫌になる人は意外に多い。
自営業者なら周囲の人は、振りまわされるのを堪え忍ぶことになり、
勤め人は他の人が仕事ができなくなるので職場が音をあげる。
入院しても夜も眠らずに騒いだり、他の患者に説教をはじめたり、
医療行為を邪魔するようになると、それ以上の拘束を考慮しなけれ
ばならなくなる。

ふだんは親切な人、世話好きな人とされているのだが、「親切」と
「おせっかい」は紙一重の差である。躁状態の時には、言う通りに
しないと怒り出すが、後ではケロリと忘れている(ように見える)。

躁うつ病の問題となるのは「 拘束 」である。
気が大きくなってやたらに物を買いあさり、やたりに手紙を出すく
らいならよいが、株の売買をしたり、投機やギャンブル、不動産に
手を出すと損害や社会的立場を守る必要が出てくる。


( 加藤忠史 双極性障害 )

さらに大きな問題となるのは躁状態です。
(双極性障害は)患者さんの人生や家庭が壊されかねない、激しい
躁状態がひとつの特徴です。しかし、本人にとって躁状態の時は、
非常に高揚した爽快な気分になっています。そして自分がとても偉
くなったと感じています。
思い通りにならないと、ひどく怒り出すことがあります。上司を激
しく攻撃して、仕事を失ってしまうことも少なくありません。

新しい考えが、次々に浮かんできますが、ひとつのことに集中でき
ず、最初のうちは、アイデアも湧いてきて、仕事がどんどんはかど
るようにも感じますが、それも長くは続きません。だんだんと考え
がまとまらなくなっていきます。
躁状態の患者さんは、休みなく、いろいろなことに手を出し、あれ
もこれもやっています。しかし結局のところ、本人の思う通りにな
っていないことが多いので、常にイライラしているものです。夜眠
れないなどの身体症状も抱えています。

躁状態が激しくなると、とにかく口数が多くなり、休むひまなくし
ゃべり続け、あるいはまったくじっとしていることが出来ず、一日
中、一晩中動き続けます。けれども本人には、その疲れが自覚でき
ず、身体は消耗してしまいます。

家族にとっては、非常に腹が立ち、また傷つくことばかりを休みな
く言い続け、家族を責め立てます。家族は、時には一睡もできず疲
れ切ってしまい、精神的にも追い詰められ、憔悴してしまいます。

躁状態になると、とても気が大きくなり、
会社のお金をつかい込んでしまったり、必要ない物を買い込んでし
まうことがあります。また、同僚や職場を突然訴えたりして、周囲
の人たちを驚かせ、あるいは傷つけてしまい、会社にも大きな損害
を与えてしまったりします。

では患者さん本人は、躁状態をどう感じているのでしょうか。
躁状態の患者さんは、自分が家族や周囲の人をどれほど困惑させ、
傷つけているか、理解できない状態になってしまっています。
そして、絶対に自分は正しいと思っています。むしろ周囲の人た
ちこそ問題がある、と思っています。躁状態とは、そういうもの
なのです。

特に最初の躁病状態の時などは、むしろ今までの人生がすべて間違
っていた、いま初めて本当の自分になれた、とすら感じているのが
普通です。
何回か躁状態を体験した患者さんが、家族や周囲の人に指摘されて
も、「躁状態だからでなく、当たり前のことを云っているだけだ」
と言い張ることも、よくあることです。

躁状態の患者さんは、ふだんより調子がよいと感じています。
いま初めて本当の自分になれたのだと言う人もいるくらいです。
ですから、自分から治療を受けるということは、殆どありません。
受診をあまり強く勧めても、意味のある関わりは難しくなります。


ラピットサイクラー(急速交代現象)

躁うつ病は、「 躁状態 」と「 うつ状態 」と「 中間期 」の三つ
の時期からできている。過活動と気分の高まりを特徴とする時期が
躁状態である。
躁とうつをくり返すのを「双極型」、うつだけくり返すのを「単極
型」という。生涯で一度だけの病相
( 発症の意味 )の人もいれば、
年に数回、ときには週や日の単位でくり返すこともある。これを
「急速交代型(rapid cycler ・ ラピットサイクラー)」という。

( 中井久夫 精神科医 )

rapid cycler( 急速交代型 )というものは、ほとんど抗うつ剤に
よって作られていると思ってください。
抗うつ剤も長く使わない方がいいですね。持続的に使うものではな
い、と思っておいてください。抗うつ剤を使って、持ち上げたり抑
えたりと rapid cycler を作らないようにしてください。
rapid cycler というような状態になっている人は、リチウムが効き
にくいんです。

( 神田橋條治 )

抗うつ薬がとくに双極性障害に躁転を起こしやすく、抗うつ薬によ
る躁転は rapid cycler化への重大なきっかけと考えられる。
一旦難治性の rapid cycler化してしまうと、躁、あるいは躁とう
つの頻回の繰り返しのみならず、病像の非定型化がすすむため、
rapid cycler化の事前の防止が第一である。

( 狭間秀文 精神科医 )


薬物治療による医原症としての人格障害

薬物療法でいちばん覚えておいて欲しいのは、抗不安薬。
抗不安薬はちょっとならいいですよ。2週間とか1カ月はいいです。
でも1年も2年も使って、だんだん量が増えてきて、種類がたく
さんになってくると、必ず人格障害に育て上げられます。
中でもデパスです。デパスがいちばんリストカットやら境界例や
らを作る妙薬ですね。内科などの精神科医以外の先生がデパスを
愛用するせいもあるんです。
デパスが横綱だけど、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬はすべて同
じ有害性があります。それから睡眠薬も、ベンゾジアゼピン系の
睡眠薬は使わない。
双極性障害を境界例状態に作り上げるいちばん手軽な方法は、
抗不安薬を多種多様に出すことです、継続的にね。  
( 神田橋條治


本来は躁うつ病であるものを、うつとして外来で治療し、漫然と
抗うつ剤を出していると、躁転したとき抗うつ剤の作用で、犯罪
その他の非行をおかすことがある。

( 中井久夫 )

僕のところへ(他の病院や医師から)人格障害という添え書きで
回されて来た人は、いままで三十数名おりましたが、結局全員、
ふつうに社会生活ができるようになりました。ほとんどがベンゾ
ジアゼピン系の長期投与による中毒、脱抑制と、抗うつ剤によっ
て刺戟して持ち上げているための行動化です。

( 神田橋條治 )


嗜癖(しへき)としての躁状態

うつ病( 単極型うつ病 )に比べて、躁うつ病は治りにくい。
何故なら、普通の状態では満足しなくて( たしかに自己実現
している状態とは、たいていは少し躁的な状態でもある )、
この状態に置いて欲しいと欲求するからである。
正常とは、余り見栄えのしない状態であることを悟ってもらう
ことが、たいへんである。

( 中井久夫 )

会場からの質問 
ご本人(双極性障害の患者さん)は、「もう少し元気でありたい」
とおっしゃって抗うつ薬を希望されることが多いようです。
そして、躁転
(躁状態へ切り替わること)されることがあります。
ご助言をよろしくお願いします。

神田橋
患者さん本人は、もう少し元気に、と言う。これが困るのよね。
こっちから見るとちょうどいいぐらいだと思うのに、本人は
「もうちょっと元気に、これはまだウツですよ」とか言うの。
「ウツじゃない」って言うんだけど、これは説得するのは難しい。
「これじゃ人生つまらない」「生き甲斐がない」とか言って。
これはね、難しい。答えられません。もう押し問答です。

( 神田橋條治 
双極性障害の診断と治療

たとえば、華やかで大きなモード・ショップを経営している女性患
者は、店の運営やモード
(ファッション)関係の仕事は気分が高揚
していなければやっていけないし、それがいつもの自分の状態だと
いって、「
(治療・薬を飲むことは)あと四年待ってください 」
という。
あるいはジャーナリストの男性患者も、リチウムを飲むとアイデア
が浮かばないので仕事に差し障るといって、嫌がった。

( テレンバッハ  メランコリー 木村 敏 訳 )


躁状態のときは、楽しそうに活動して、よく喋って、人にちょっか
いをかけているのに、それが薬によってある程度鎮静化したとき、
「 楽になったみたいね 」と言うと「 はい 」と言う。
躁状態はやっぱり苦しいのよ。
楽しそうに、わあわあ言って、オレは偉いぞとかやっていても、
やっぱり脳のキャパシティぎりぎりになっていて、それはなんだか
辛いの。だから躁状態はかなり苦しい。

( 神田橋條治 )

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