日常みられるストレス症状
日常生活の中で、広くみられるストレス症状は、 自律神経系の存在抜きには、語れません。
自律神経には、交感神経系と副交感神経系の二系統があり、 ふたつが交互に働きながら、 さまざまな生命・身体活動を司っています。
自律神経の神経( 交感神経と副交感神経 )は、 血管や心臓、胃腸をはじめとする全ての臓器、皮膚や毛根、 眼球など、全身に張り巡らされています。
そして自律神経は、各臓器や末端の身体部分の状態や動きを、 中枢神経(脳と脳に直接つながる神経)に伝えると同時に、 中枢神経からの指示を、各臓器や末端の身体部分に伝えて、 身体活動をコントロールする役目を担っています。
【 感情・情動と自律神経(情動ストレス)】
上に記したように、自律神経系は、 生命・身体活動に深くかかわる神経のために、 わたしたちは自分の「 意思 」で、 自律神経系を勝手に動かすことはできません。
たとえば「 心臓よ動け 」と意識的に念じても、 心臓の拍動は変化しませんが、たとえば ひどくショックなことがあったり、怒ったり、興奮すると、 交感神経が亢進して、心臓の鼓動が早まります。 急にドキドキしてきます。
つまり感情や情動が、 自律神経に影響を与えるからです。 情動とは、感情のエネルギーのより強いものを云います。
ですから、強い不安を感じることで、 動悸などの身体の症状が、生じることがあります。 心身のストレスによって、 不整脈を生んだりもするわけです。
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突然死の病態には、虚血性心疾患などの器質的な異常のほかに、 「情動ストレス」や「自律神経系の失調」などの因子が関与し ており、それらの因子がそろったときに、突然死が引き起され ると考えられています。 ( 山口利昌・総合内科医 )
動悸は自覚しやすいため、日常の診療では、不整脈の頻度が 極めて少ないにもかかわらず、動悸に執着して頻回に外来を 受診する患者がしばしば見られます。 このような場合、安易に抗不整脈薬を投与すると、抗不整脈 薬による催不整脈作用によって、かえって不整脈が誘発され、 その不整脈のために、さらに不安が強まることがあります。 また(こうした患者さんに)抗不安薬などの向精神薬を (内科や婦人科等で)投与することもありますが、向精神薬 によって、ときに致死的な不整脈が誘発されることもあります。 ( 山口利昌・総合内科医 )
【 リラックス信号と副交感神経 】
逆に、リラックスしたり、安心感を感じると、 副交感神経が働いて、心臓の鼓動は落ちつきます。
生理的な嫌悪感や恐怖などで、 体毛が逆立つのは交感神経の働きです。 たとえば、ネコや小動物を見ていても、 外敵に遭遇したり、恐怖と緊張が誘発される状況に遭遇すると、 体中の体毛を逆立てます。
【 副交感神経反射 】
交感神経系の過度の興奮が続くと、 身体にとても負担がかかって、ひどく危険なことになります。
そのため、身体は副交感神経を働かせて、 リラックス信号を出そうとして、様々な反応を引き起します。
こうした副交感神経の働きを、 「 副交感神経反射 」と呼んでいます。
つまり、副交感神経反射とは 身体が自分を守ろうとする防衛反応でもあるわけです。
たとえば、心臓の鼓動が激しく、心臓がバクバク動き続けると、 やがて心臓の筋肉は破壊されてしまいます。
そのため、リラックス信号を出そうとして 身体はいろいろなやり方で、副交感神経を働かせます。
副交感神経が働いてリラック信号が出てくると、 上に記したように、心臓の鼓動は穏やかに変化します。 次第に収まって肩の力が抜け、落ち着いてゆきます。
たとえば、ひどく緊張したり不安に襲われると よくトイレに行きたくなります。 もう何も出ないのに、何度もトイレに行ったりします。
排尿( おしっこ )では、尿道の括約筋( かつやくきん )を ゆるめると同時に副交感神経が働いて、膀胱の筋肉が収縮し、 おしっこをスムーズに押し出すことが出来ます。
つまり、副交感神経系を働かすことになるわけです。
そのため、緊張したりすると、 よくトイレに行きたくなる現象が生まれます。
そうした時の尿意とは、身体が緊張や興奮をしずめて、 リラックス信号を出そうとしているわけです。
涙も、副交感神経の働きです。
涙を流したあとは副交感神経が働くので、 気持ちが落着くことになります。 涙を流すことは、健康的なストレス処理にもつながります。
■ 交感神経の過度な亢進で見られるもの 目の疲れ 首や肩の凝り 発汗 頭重 不眠 息切れ 高血圧 濃い痰 口の渇き 胃もたれ 食欲不振 梅干しや甘い物が欲しくなる 筋肉のこわばり イライラ感 落ち着かない気分 等々
■ 副交感神経の過度な亢進で見られるもの 湿疹 じんましん のぼせ せき 目のかゆみ めまい 頻尿 下痢 発熱 脱力感 臭いや刺戟に対する過敏性 耳鳴り 痛み 足のかゆみ 等々
副交感神経は、「排泄」「デトックス」の働きをも おこなっています。
副交感神経が最も働くのは、睡眠中です。 子どもは朝起きると、目ヤニをくっつけていますが、 不要なものを排出する働き(新陳代謝)が 強いあらわれの一つです。 大人になると、目ヤニさへ出なくなります。
【 副交感神経とストレス症状 】
このように「 副交感神経反射 」作用は リラックス信号を出そうとする身体の働きでもあります。
そのため、交感神経系の興奮や亢進が深く強いほど、 そうした緊張から回復しようとする副交感神経の働きも、 その分、深く強くならざるをえません。
そのため、交感神経系の身体症状に代って、 あたかも「揺り戻し」のように、 副交感神経系のさまざまな身体症状が、 生じてくることがあります。
これは、日常でみられるストレス反応( 身体症状 )の ひとつの形でもあります。
つまりこの場合、本当の問題は、 副交感神経系の症状ではなく、 その前に存在する、交感神経系の緊張、過度な亢進であり、 それを生んでいる心のストレスや神経の緊張状態こそが、 本当の問題の在処(ありか)、ということになります。
副交感神経は、 消化・排泄・睡眠・嘔吐などの働きを 主に担っている神経、とされています。
イヤなこと、つらい事があると 布団にもぐり込んで、寝てしまうことがよくあります。
「 ふて寝 」という言葉の通り、 これもストレス処理行動の大切な一としてあります。 わたしたちは、眠ることで自分を癒しているわけです。 人間にとって、とても大切な行動です。
ガン療法のひとつに玄米療法がおこなわれていますが、 玄米は消化が悪いため、それを消化しようとして、 その分、副交感神経が強く働くことになります。
とてもつらくて苦しくて、 「 もうこんな所にいたくない、逃げ出したい 」と追い込まれ たような精神状態になると、 吐気や嘔吐に襲われることもあります。 これも副交感神経反射の働きです。
強い緊張感や拒否感が交感神経の過度の興奮を生み、 それが続いて苦しくなると、今度は、リラックス信号を出すた めに副交感神経が働いて、それが、吐気や嘔吐として現われる ことがあります。
「 食べ吐き 」行動なども、生理的な面からみるとき、 こうした副交感神経を働かせる行動・行為と云えます。
思いっきりたくさん食べて、それを一度に吐き出すと、 副交感神経が一挙に働いて、苦しさの中に、つかの間 の穏やかな安心感( 放心感 )が訪れます。
下剤を飲んで排泄するのも、同じです。 上から出すか下から出すかの違いです。
摂食障害の患者さんたちは、 それだけ神経の強い緊張の中に生きている、 とも云えるかも知れません。
過敏性腸症候群( 神経性下痢 )なども 生理学的な面からみると、副交感神経反射のひとつです。
神経性下痢の患者さんたちは、 下痢という反応( 副交感神経反射 )を出すことで 交感神経系の過剰亢進から、 自分の身体や精神を護っているとも云えるのです。
【 医原症による複雑化 】
こうしたことが背景にあるために、 ただ「 症状 」をなくすことだけしか目が向かずにいる治療の 場合には、かえって、患者さんやクライエントに、副作用や反 動が、別の形で現われ出ることがあります。
別の代償行動・代償反応を誘発することにより、 かえって、病状や状態が複雑化(つまりグチャグチャに) なってしまうことが起こり得ます。
そしてそうなると、 「 あなた(患者・クライエント)が真剣に治そうとしてない からだ 」と、云われてしまうこともあります。
ただ症状をなくすことだけを直接の目標にする治療・関わりは、 上に記したように、 「 医原症 」を生む要因に、なりかねません。
副交感神経系の身体症状があらわれている時には、 身体が緊張から回復して、 バランスをとろうとしている働きですので、 身体(心身)を休めることが、 最も大切なことになります。
薬の多くは、交感神経系を刺戟するものですので、 本来不必要な薬を飲み続けている場合、 せっかく身体がおこなっている回復活動を阻害することになり、 結局は、身体症状がより複雑化・慢性化してゆく場合があります。
ストレス症状には、もっと強い刺激を求めることで 心身の緊張や不快な状態から、 一時的に逃れようとするタイプのものがあります。 刺戟とストレス
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